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【LabVIEWトレンド】5Gのその先へ。6Gプロトタイピング

 オリンピックも近づき、20Gbps以上の通信の大容量化、LTEの10分の1の低遅延通信を実現する5G実用化への目処も付き、その技術がもたらす経済効果は世界全体で1336兆円に達するとも試算されています。※1 

実はそんな中で、6Gに向けた要素技術の検討も進んでいます。今回はこうした先端技術開発領域におけるNIの取り組みについてお話させていただきます。

 

  ナショナルインスツルメンツ(NI)では、いわゆるソフトウェア無線と呼ばれるソリューションを提供しています。これは電子回路(ハードウェア設計)に変更を加えることなく、制御ソフトウェア(LabVIEW)を修正することにより、取り扱う周波数帯、変調方式や無線機能を自由に変更することができる機器を指しています。

 このアプローチではLabVIEWの持つ信号処理や数学的な関数、更にはMatlabとの高度な連携なども活用が可能です。無線ハードウェアの試作、修正を内製で行う場合と比較して超短期間でのシステムの開発が可能となります。

 

 今回はNEC様の公開事例を基に、ソフトウェア無線の具体的な活用方法をご紹介します。この事例では基地局とネットワーク間、いわゆるバックホールと呼ばれる回線がテーマになります。(Figure 1にあるようなコアネットワークと基地局をつなぐ部分)。6G通信の検討にあたり、モバイル端末と基地局間の通信(フロントホール)はもとより、このバックホールの大容量化も課題となり、数10~100Gbps以上の容量が求められると予想されています。

 この課題に対する一つのアプローチがOAMです。OAMは軌道角運動量の略称であり、電波(光)の公転方向の成分を指しています。このアイデアを簡単にいえば様々な個性を持った光の粒を空間に送信し、それを一つに重ねることで同じ周波数、同じ時間帯に複数の光を送信し、通信の大容量化を狙うことができます。

 

図1.png

 

          Figure 1  バックホールとはどの部分?

 

図2.png

 

            Figure 2 システムのイメージ図

 

OAM

   せっかくなのでOAMについて、少々詳しく説明いたします。ひとつの前提として電波と光は実質的に同じです。例えば安定した特徴を持ち、通信分野に用いられる光としてはレーザー光が挙げられます。じつは通常のレーザー光は光の取ることのできる、可能性(状態)のうち、わずかな種類の状態(軌道角運動量が0の状態)にのみ注目してきました。例えば、光の特徴を表すパラメータとしては強度、周波数であったり偏光が一般的なものとして挙げられます。

 1992年にAllenという研究者が光渦の生成法を考案したのをきっかけに,光がもともと持っている軌道角運動量というパラメータを活用する研究が始まりました。 地球が太陽の周りを回っていることを想像していただきたいのですが、光渦では通常のレーザービームとは違い,フォトンが自転の成分(スピン角運動量)だけでなく公転の運動量成分(軌道角運動量)を持っています。そして、理論上このパラメータは無限に取ることができ、この無数のパラメータを利用することで、無線通信の容量をあげようとしています。この渦のパラメータ(フォトンの公転成分の運動量)を変えることでよりたくさんの異なる性質をもった光(分離可能)を重ねる事ができ、結果として限られた周波数リソースで大量のデータの送受信が可能になります。

 

 

       Figure 3 フォトンとOAM (出典:北海道大学光量子物理学研究室)

 

開発における課題

 ハードウェアの試作は時間が不足しがちです。今回の事例の場合、開発初年度に軌道角運動量の異なる電波を重ねて送信し、受信後分離できるかどうかの検証を実証する必要がありました。またどの電波帯を使用可能か明らかではないなどの懸念点もあります。6ヶ月しか時間がないことを考えると実験設備の構築に3ヶ月、実験に2ヶ月、レポートアウトに1ヶ月というタイトなスケジュールでした。

 

NI製品のメリット

1.アルゴリズム転用の容易さ

 ハードを構築する上では使い慣れたプログラミング言語との相性が重要になります。変調方法等のアルゴリズム開発はC言語、Matlabで行っていました。このアルゴリズムをFPGAに搭載する場合、ハードウェアに落とし込む際に根気強くデバックする必要があります。NIソリューションでは構築したMatlabアルゴリズムを転用することができる、僅かな編集作業でFPGA上でのリアルタイム変調等の処理の実装が可能になりました。また将来の検討事項への準備を兼ねて、汎用性のあるプラットフォーム構築することも重要なポイントです。都度機能追加が可能なモジュール式のソフトウェア、及びHWがこの点でも効果を発揮しました。

 

2.サポート:

  システム構築にあたり複数社を検討されていました。海外のソフトウェア無線機を取り扱う別メーカー様だと、調達や技術面のサポート等での不安も拭えません。NIは高い専門性を持つアライアンス企業様を含めた開発、運用サポート体制を有しています。本件ではHW機材の納期が1ヶ月、FPGAへのアルゴリズム実装を含めた開発を2ヶ月で終了することが可能になりました。これは内製で構築する場合と比較し、半分以下の時間でした。

 

お客様の挙げられた成果

      1. 8種類OAMでの送受信x2偏波で16多重送受信の実現
      2. OAMを行う上での今後の課題の抽出
      3. 世界初の事例として7mの距離での多重OAM送受信を達成

今回お話した無線通信の分野に限らず、タイトなスケジュールでのハードウェア設計やコントローラ等のプロトタイピングなど仕様変更を頻繁に繰り返しながら、結果を詰めていく案件もあるかと思います。

 不確実な状況で結果に結びつけるためのツール。それがNIの強みであり提供できる価値となります。もし上に似たお悩みをお持ちでしたら、良いご提案ができるかもしれません。

 

【参考リンク】ソフトウェア無線について

 https://www.ni.com/ja-jp/innovations/wireless/software-defined-radio.html 

 

※1 (出所)総務省「IoT時代に向けた移動通信政策の動向」


この記事を書いた人

阿部 敏朗

熊本県熊本市生まれ。茨城育ち。
日本ナショナルインスツルメンツ(NI)にて九州、中四国地方を担当。

LabVIEWや製品が日に日に新しくなるので日々勉強しつつ活動しています。
趣味は毎日の食事、AI関連の記事をよむこと、温泉、ロングウォーキング。
ご相談・お問い合わせなどありましたら、こちらよりお気軽にお問い合わせください。

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